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東京高等裁判所 平成9年(行コ)5号 判決 1998年5月26日

控訴人

生活協同組合コープかながわ

右代表者理事

馬場昭夫

右訴訟代理人弁護士

矢島惣平

長瀨幸雄

久保博道

被控訴人

相模原税務署長福井喜一郎

戸塚税務署長藤田弘之

藤沢税務署長磯部喜久男

右三名指定代理人

加藤裕

外三名

主文

一  本件控訴をいずれも棄却する。

二  控訴費用は控訴人の負担とする。

事実及び理由

第一  当事者の求めた裁判

一  控訴人

1  原判決を取り消す。

2  被控訴人相模原税務署長が平成六年六月二八日付けで控訴人に対してした酒類販売業免許拒否処分、被控訴人戸塚税務署長が同月二九日付けで控訴人に対してした酒類販売業免許拒否処分及び被控訴人藤沢税務署長が同月二七日付けで控訴人に対してした酒類販売業免許拒否処分を、いずれも取り消す。

3  訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人らの負担とする。

二  被控訴人ら

主文と同旨

第二  事案の概要

本件の事案の概要は、以下のとおり当審における双方の主張を付加するほかは、原判決「事実及び理由」の「第二 事案の概要(全事件)」のとおりであるから、これを引用する(略語についても、以下、原判決と同様とする。)。

一  当審における控訴人の主張

1  本件拒否規定の合理性について

原判決は、本件拒否規定が合理性を有する理由として、それが需給調整を図るための基準として人口基準を採用することから当然に導き出されるものであり、人口基準が合理性を有する以上、本件拒否規定も合理性を有すると判示する。

しかしながら、以下(一)ないし(五)のとおり、そもそも本件拒否規定は人口基準から当然に導かれるものとはいえないことなどから、原判決の右判示は失当というべきである。

(一) 原判決が、本件拒否規定が人口基準から当然に導かれるものであるとする根拠は、以下①、②のとおりである(以下、この項では「①の判示」及び「②の判示」という。)。

① 人口基準は、一定の地域に居住する者が酒類を購入する可能性があることを前提として、この需要の多寡を人口数を基準として把握し、需給の調整を図ろうとするものである。したがって、需給調整の判断基準として、このような人口基準を採用しておきながら、他方で酒類の販売先が特定の構成員に限定された団体に酒販免許を付与すると、一定の地域に居住する住民の中に、当該団体等から酒類を購入できる者と購入できない者とが生ずることになり、その地域について、一律の人口基準により需要の多寡を判断することが困難ないし不可能になる。

② その地域においては、酒類の販売先が特定の構成員に限定された団体等から酒類を購入する可能性のない者が存在することにより、それらの者との関係で、一律に人口基準により販売場数を算出することの合理性が失われる結果、他の申請者の免許申請に対し、需給の均衡を欠くとしてこれを拒否することができなくなり、距離的に近い地域において、二つの酒販店が競合するという結果が生じ、生協のように税の優遇措置が採られていない一般の酒販店の経営が不安定となり、酒類製造業者において、酒類販売代金の回収が困難となるような事態が発生し、これが酒税の安定的な確保に影響を及ぼすことも予想される。

(二) しかしながら、①の判示は、以下のとおり誤りである。

(1) ①の判示のうち、人口基準は、一定の地域に居住する者が酒類を購入する可能性があることを前提として、この需要の多寡を人口数を基準として把握し、需給の調整を図ろうとするものであること、したがって、需給調整の判断基準として、このような人口基準を採用しておきながら、他方で酒類の販売先が特定の構成員に限定された団体に酒販免許を付与すると、一定の地域に居住する住民の中に、当該団体等から酒類を購入できる者と購入できない者とが生ずることになることについては、何ら異論はない。

しかしながら、当該地域の住民の中に、当該団体からは酒類を購入できない者が生ずるとしても、その者も地域内の他の酒類販売業者から酒類を購入することができるのであるから、その者が酒類を購入する可能性のある者であることに変わりはない。したがって、地域内の者が皆酒類を購入する可能性があることという人口基準の前提に変化はないから、これを前提とした需給の調整が困難ないし不可能になる等ということもありえないのである。

もっとも、当該地域内に酒類販売場が当該団体以外存在しない場合には、その地域内に酒類を購入する可能性のない者が生じてしまうこととなるが、現行の人口基準における販売地域は市区町村を単位地域とし、この単位地域内には多数の酒類販売場が存在するのであるから、このような事態は生じない。

要するに、①の判示の結論部分とその前の部分とは論理的整合性がないのであり、むしろ、原判決は、地域に居住する者の酒類購入の可能性と、当該団体から酒類を購入する可能性とを明確に区別せず、混同しているかに思われる。

論理的整合性をもって原判決のような結論を導くためには、当該地域の住民全員がその地域に存するすべての酒類販売場から酒類を購入する可能性があるという前提に置き換えなければならないが、現行の人口基準は、市区町村という一定の広さを持った地域を一単位としてとらえ、その単位地域全体の人口を基準人口で除することにより販売場数を算出しているにすぎないから、その地域を全体的に見て、その住民すべてが酒類を購入する可能性があればよいのであり、それ以上に住民のすべてがその地域内のすべての酒類販売場から酒類を購入する可能性があることまで要求することは不必要であり、無意味なことである。

そもそも人口基準が設けられた目的は、酒税の保全であり、過当競争が生じて業者の経営が不安定化し、販売代金の回収に困難をきたすことを防止することである。ここにいう需給調整とは、需要以上の供給を防止することに主眼がある。

そのため、人口基準は、地域の人口を基準人口で除して免許枠を算出し、その枠を超える免許は認めないものとなっているのである。

したがって、この免許枠の範囲内である限り、供給過剰となって過当競争が生ずるおそれはないことになるのであり、その免許枠の範囲内にある販売場の一部をその地域に居住している人すべてが利用できるか否かは、酒税法上の需給調整とは直接の論理的関連性がないのである。

(2) 酒類販売場が当該地域内のすべての住民に利用できるか否かの点は、しいていえば利用者の便益の問題となるだけのことである。

被控訴人らは原審において、この消費者の便益も本件拒否規定の根拠の一つとして主張していた。

しかし、このような消費者の便益論は、既に存在している酒類販売場数の状況からしても、現実に消費者が不便を被るなどということは考えられないことであり、到底成り立ちえないものである。

①の判示は、原判決が、原審における被控訴人らの主張をそのまま採用したものであるが、控訴人はこれに対し、前項のとおり反論をしていたものであるのに、原判決は、控訴人の右主張について、「しかし、前述したように、酒類の販売先が特定の構成員に限定された団体に酒販免許を付与することにすれば、そもそも人口基準による需給調整を図ることは困難ないし不可能になるから、にわかに控訴人の主張するようにはいえない」旨の判示をするのみであり、これでは、控訴人の右主張に対する回答になっていない。原判決はこの点で、理由不備といわねばならない。

(3) なお、免許を受けた団体が一部の人しか利用できず、この利用できる人が当該基準人口に満たない場合には、基準人口による免許枠以上の販売場を認めても過当競争のおそれが生じない場合もありうる(もっとも、現実には他の免許の要件の関係で、実際にもう一場免許を付与しなければならなくなるような事態は生じない。)。

しかし、このような場合がありうるからといって、基準人口に満たない団体には免許を付与すべきでないということにはならない。このような場合が生じた時点で免許を付与すればよいだけのことであり、あらかじめ一切免許から締め出すことは営業の自由を保障した憲法の精神にも反するからである。

以上に対し、一部の人しか利用できないといっても、その利用可能な人が基準人口数を超える場合にはこのような問題は生じない。そして、控訴人の本件各申請販売場の周辺の控訴人の組合員数は基準人口数をはるかに上回っているのである。

(三) また、②の判示も、以下のとおり誤りである。

(1) ②の判示のうち、「その地域においては、酒類の販売先が特定の構成員に限定された団体等から酒類を購入する可能性のない者が存在することにより、それらの者との関係で、一律に人口基準により販売場数を算出することの合理性が失われる」との点は、①の判示と同旨であるが、ある団体から酒類を購入する可能性のない者が存在するからといって、人口基準により販売場数を算出することの合理性が失われることにならないことは、前記(二)に述べたとおりである。

ただし、当該団体の構成員数が基準人口に満たない場合には、人口基準により算出された販売場数より多い販売場を認めても、需給のバランスを失しない事態が想定しうるが、現実にはこのような事態は生じないし、このような事態が観念上想定しうることをもって、人口基準により販売場数を算出することの合理性が失われるとまでいうことができないことも、前記(二)(3)に述べたとおりである。

(2) ②の判示のうち、前項に続いて、「他の申請者の免許申請に対し、需給の均衡を欠くとしてこれを拒否することができなくなる」と判示する点は、前記(二)(3)に述べたとおり、販売先がその構成員に限定される団体に免許を付与した場合のすべてに生じることではなく、その構成員数が基準人口を下回る場合に限られるはずであるから、右判示は、その構成員数が基準人口を上回っている場合には、該当しない。

そして、構成員数が基準人口を下回っている場合で、さらに免許を認めても差し支えない事態が生じた場合でも、免許を与えればよいだけのことであり、そのような事態が生じうることを理由に免許を拒否することには何らの合理性もない。

そもそも、法律上免許を拒否できるのは、需給調整上の観点から過当競争が生じて酒税の保全に支障が生ずるおそれのあることを理由とする場合だけであるから、過当競争になることなくもう一場免許を与えざるをえなくなる場合が生じる可能性があるということを理由に免許を拒否することは、単に合理性がないだけでなく、明らかに違法である。

(3) ②の判示は、更に続いて、「距離的に近い地域において、二つの酒販店が競合するという結果が生じ、生協のように税の優遇措置が採られていない一般の酒販店の経営が不安定となり、酒類製造業者において、酒類販売代金の回収が困難となるような事態が発生し、これが酒税の安定的な確保に影響を及ぼすことも予想される」とするが、他の申請者の免許申請に対し、需給の均衡を欠くとしてこれを拒否することができなくなる場合とは、市区町村を単位とする小売販売地域の中にもう一場販売場を認めるということであり、必ずしも距離的に近い地域において二つの酒販店が競合するという結果が生じることにはならない。

また、距離的に近い地域において二つの酒販店が競合するという結果が生じることは、免許を与える場合すべてに問題となることである。

したがって、もう一場免許を認めざるをえない場合の結果としてこのようなことを述べる原判決の論旨は、それだけで失当といえる。

そして、免許取扱要領は、別途距離基準を設け、店舗間に一定の距離が保たれるよう調整しているのであるから、距離が近いことによる問題はこの点で解消されるのである。

なお、右判示の点は、被控訴人らが、消費者の便益という観点から、当該団体の近隣で新たな販売場を認めざるをえない場合を想定して述べていたことを、原判決がそれと異なる場面に持ち出したものであって、この点からも、原判決が論理矛盾をきたしていることが明らかである。

(4) ②の判示は、さらに、生協に優遇税制があることから、競合する他の酒販店の経営が不安定化するとする。

しかし、生協に優遇税制があるからといって、このようにいうことはできない。すなわち、税制上の違いがあるからといって、直ちに他の酒販店が生協より競争上不利益になるとはいえない。経営の良、不良は、税制のみが決定的なものではなく、他の経営上の種々の要素が絡み合うものだからである。むしろ、営利を目的とせず、法律に基づいてその設立と事業が認められている生協の方が、実際上営業活動に制限を受け、利益を上げるという観点からは十分な経営ができないことも大いにあるのである。

また、優遇税制の問題は酒類の販売に限ったことではない。酒類以外の食料品、衣料、日用品、雑貨その他一般の中小ないし零細の販売業者は、生協と共存的に競争し、経営的にも安定してそれぞれに支障なく営業を続けているのであり、酒類の販売についてのみこれを問題とすることは失当である。

さらに、協同組合に課される法人税の税率は一〇〇分の二七とされているところ、資本の金額が一億円以下の普通法人の場合、所得の金額のうち八〇〇万円以下の部分の法人税の税率は一〇〇分の二八とされ、一般の中小の酒販店の圧倒的多数の年間の課税所得は八〇〇万円以下であるから、生協等の協同組合とその税率にほとんど差はないのである。しかも、控訴人のような規模の生協の場合、所得のうち一〇億円を超える部分についての税率は一〇〇分の三〇とされているので、控訴人の所得全体に対する法人税の割合は、ほとんどすべての酒販店のそれを上回っている。そのうえ、酒販店を含む多くの中小小売商は、その大多数が税制上の理由から法人化し、生協とは比較にならない合法的な事実上の優遇措置を受けているのであるから、ただ表面的な税率のみを基に議論することは失当である。

なお、原判決は、員外利用許可を得ることにより生協も免許を取得できることを指摘し、その扱いを是認する判断を示している。しかし、員外利用許可の有無により優遇税制の点に違いは生じないから、生協に対する免許付与の適否に関する議論において、原判決の立場で、優遇税制の問題を持ち出すことは、そもそも論理的に失当なことである。

(四) 本件拒否規定の沿革等からしても、本件拒否規定は人口基準と関連するとはいえない。

(1) 本件拒否規定が定められたのは昭和三四年である。現行人口基準は平成元年に制定されたが、それ以前は、小売数量基準と世帯基準が存在し、この世帯基準は人口基準と同様のものであったが、昭和三八年以降は、小売数量基準のみによっても免許が付与される状態が継続していたのである。

このことからも、本件拒否規定と人口基準は関連性がないことが明らかである。

(2) また、本件拒否規定が設けられた趣旨に関する当局者の国会での答弁を見ても、もっぱら消費者の便益をその理由として説明しており、原判決のように人口基準から当然に導かれるとは言っていない。

(3) 本件拒否規定は、その規定上明らかなとおり、当分の間との留保付で定められている。

原判決のいうように、本件拒否規定が人口基準から当然に導かれるものであるとすれば、人口基準が存続する限り本件拒否規定も存続し続けねばならないはずであり、右のような留保が付くこと自体おかしなことである。このような留保が付くこと自体が、人口基準から必然的に派生するものではないことを示すものである。

なお、原判決は、一定の地域におけるすべての消費者の利益に適切に応えられる申請者からの多数の免許申請がされていると推認される今日の状況では、なお当分の間、本件拒否規定を維持する必要があるものといえる旨を判示するが、このような論旨は、本件拒否規定が人口基準から導かれるという論理と矛盾するものであって、本件拒否規定が消費者の便益論から導かれるとの前提に立ってはじめて論理的整合性を持つことになる。原判決は、この点でも論理粗雑なものとなってしまっている。

(4) さらに、免許取扱要領によれば、本件拒否規定は、人口基準を採用していない大型店舗酒類小売業免許や特殊酒類小売業免許にも準用されており、この点からも、本件拒否規定が人口基準とは直接の関連性を持たないことが明らかである。

なお、原判決は、控訴人による右の指摘に対して、大型免許や特殊免許に人口基準が適用されない理由を述べるに止まり、何ら答えていない。

(五) 本件拒否規定は、以下の点でも不合理である。

(1) 酒類販売業に免許制が採用されたのは昭和一三年であるが、本件拒否規定が導入されたのは昭和三四年であり、それまでは本件拒否規定のような規定は存在しなかった。このことからも、需給調整と本件拒否規定との間に必然性のないことが明らかである。

そして、昭和一三年当時の立法者意思は、生協のような団体(産業組合の購買組合)にも免許を与えるというものであった。この昭和一三年の酒類販売業免許制は、昭和一五年の酒税法の制定、昭和二八年の改正に引き継がれ、酒類販売免許制の趣旨に何らの変更もなかった。

それが、昭和三四年に行政上の運用基準にすぎない免許取扱要領において、右立法者意思に反する本件拒否規定が、当分の間との留保を付けつつも、突如として出現したのである。

このような経緯からしても、本件拒否規定が確固とした合理性を有するものであるとは到底考えられない。

(2) 平成元年における免許取扱要領の改正以来、百貨店、スーパーマーケット等の大型店舗については場所的要件や人口基準を排除して、単に経営能力等が存在することといった人的要件のみで免許を付与する扱いとなった。

また、一般酒類小売業免許についても、繁華街やショッピングセンター等の商業集積地区等においては、距離制限を適用しなくともよいとし、人口基準と関わりのない免許枠の特例を設けることとした。

このようにして、現行の免許取扱要領は、人口基準を採用したとはいいながらも、その人口基準による需給の調整という考え方を部分的なものに止め、相対化しているのである。

以上のような全体的な制度の変容を考えてみても、本件拒否規定にのみこだわり続けることは、全く合理性を欠くものとなっている。

(3) 消費生活協同組合は、消費者が主体となる自主的な協同組合であり、「組合員の生活に必要な物資を購入し、これに加工し若しくは加工しないで、又は生産して組合員に供給する事業」(生協法一〇条一項一号)は、生協にとって最も重要かつ基本的な業務である。

生協にとって、日常的に消費者が必要とするものを供給していくことは、本質的に要請されていることであり、実際にも生協が行っている業務の中で中心となってきたものである。

そのような中で、なぜ生活必要品のうち酒類のみが購入できないのか、一般消費者である組合員にとって全く理解に苦しむところである。

特に、生協法は、生協の発達を図り、もって国民生活の安定と生活文化の向上を期することをめざしているのであり(生協法一条)、このような生協が、生活必要品のうち酒類のみ扱えないということは、常識的に考えても不合理極まりないことである。

(六) 被控訴人らの主張(後記二1(一)(1)ないし(3))について。

(1) 被控訴人らは、本件拒否規定は当該免許の対象となる酒類販売業者が酒類を購入しようとするすべての消費者に販売できることを前提とすると主張するが、これは消費者の便益を根拠とするものにほかならない。

この消費者の便益論は、現実問題として成り立ちえない。すなわち、酒類小売業免許の単位となる市区町村には多数の酒販店が存在し、消費者がその身近にたやすく酒類を買える店がないため不便な状況は存在しない。そのうえ、被控訴人らも自認しているように、モータリゼーションの進展をはじめとする現在の交通手段の発達により、都市部を中心として、消費者の生活圏が著しく広域化している状況からも、消費者の便益論は、現実を無視した観念論とならざるをえない。

したがって、山間僻地のような場所でない限り、消費者の便益を理由に本件拒否規定の合理性を根拠づけることはできない。

また、生協は開かれた団体であり、生協で酒類を買いたい人は、いつでも自由に組合員になって買うことができるのであるから、この点からも、消費者の不便を理由とすることは不当である。のみならず、生協は、消費者が組織する消費者のための団体であって、消費者の便益を理由としてこれを排除することは、まさに背理というべきである。

(2) 被控訴人らは、生協が①優遇税制があること、②営利を目的としないこと、③利用分量割りもどしや出資配当があること等を、本件拒否規定の合理性の根拠として主張する(なお、この主張は、本件拒否規定が生協を狙い撃ちしたものであることを語るに落ちたものであることを指摘しておきたい。)。

右①ないし③の点を理由に、一般の酒販店が生協と対等に競争できないなどとは、当然にいえることではない。

これらの点は、酒類の販売に限ったことではなく、すべての商品の販売についていえることであって、それにもかかわらず、一般の小売業者は十分生協と対等に競争し、共存しているのである。そのうえ、酒類販売業にあっては、人口基準による枠内でしか販売業を認めないのであるから、他の小売業以上に過当競争のおそれは排除されている。

また、出資配当や利用分量割りもどしは、その実態からして極めて些細なものであり、その都度現金で組合員に還元されているわけではない。一般小売店が行っている様々な顧客サービスと比較して優位性を誇れるようなものではない。

さらに、これらの点は、員外利用を受けるか否かによって変わりはないから、被控訴人らの指摘するように、これらの点が理由となって、一般の酒販店が生協と競争できないのであれば、員外利用許可の有無にかかわらず、免許を認めないことにしなければ趣旨一貫しない。

(3) 被控訴人らは、ある生協が員外利用許可を受けていないということは、すなわちその生協について、行政庁が、中小小売商の事業活動に影響を及ぼし、その利益を著しく害すると認めているということであると主張するようであるが、右論旨が誤りであることは明らかである。したがって、員外利用許可を受けないまま税務署長が免許を付与すると、既存の一般の酒販店の事業活動に影響を及ぼし、その利益を著しく害するなどということも到底いえない。

そもそも、生協法一二条が員外利用に一定の要件を定めたのは、生協が員外利用を行おうとした場合における中小小売業者との利害の調整という観点からのものであり、酒税法が定める酒税の確保という観点とはその性質を異にするものであって、税務署長がこのような生協法の領域に踏み込むことは明らかに権限を逸脱したものといわざるをえない。

そして、むしろ、員内利用の場合には、他の事業者と等しくその事業の機会均等を保障することこそ生協法一一条が規定するところであるから、被控訴人らがその誤った論理に基づき、員外利用許可を要求することは、不当、違法というほかない。

(4) 被控訴人らは、企業の購買組合を例に挙げて、本件拒否規定の合理性を主張しているが、生協は、企業の購買組合とはその性格、機能等を異にすること、企業の購買組合には生協法一一条のような事業の機会均等の保障はないことなどから、右主張をもって、生協を免許から排除することは許されない。

また、この点も員外利用許可の有無によって変わりのないことであるから、ここでも被控訴人らの主張は破綻しているといわざるをえない。

2  生協法一一条違反について

原判決は、本件拒否規定が生協法一一条に違反するものではないと判示しているが、右判示も、以下(一)ないし(七)のとおり、明らかに誤りである。

(一) 原判決が、本件拒否規定が生協法一一条に違反するものではないとする根拠は、以下①ないし③のとおりである(以下、この項では「①の判示」ないし「③の判示」という。)。

① 本件拒否規定が定められたのは、酒税の保全の目的からであり、生協排除の目的からではないこと。

② 生協も員外利用許可を受ければ、免許が付与されるから、本件拒否規定は一律に生協を排除するものではないこと。

③ 現行の人口基準が合理的なものといえることに加え、生協が税制上優遇されており、生協の出店が一般の小売商に与える影響は小さくないと考えられることなどを考慮すると、生協に酒販免許を与えるには、員外利用許可を求めるほかに適切な方法がないこと。

(二) ①の判示については、仮に本件拒否規定の目的が右判示のとおりであったとしても、その結果として生協が排除されていることが問題なのであって、その目的が生協排除にないからといって、生協法一一条に違反しないということにはならない。

(三) ②の判示は、以下のとおり失当である。

(1) 生協は、その本質上、協同組合の精神に基づく相互扶助の組織であるから、それを利用できるのは基本的に組合員に限られる。生協法一一条が、生協に事業の機会均等を保障したのも、このような利用形態を前提とするものである。員外利用許可を受けるといった条件を課すことは、この前提を覆すことを要求することにほかならない。

(2) そもそも、生協法が員外利用を認めた趣旨は、「利用を組合員のみに限定するときは国民経済の立場からも無駄と不合理を生ずることが予想され、またその事業が公益的要素を多分に有するときは、組合員の利用に支障をきたさない場合に限り、特に許可をして利用者の範囲を拡張し、組合員でない者に対してもその利用を許し、その利益に均霑せしめることが望ましい」ということからであり、その一般的な許可基準としては、「付近に他に適当な施設なきため公共の福祉の立場からやむをえずその区域内の人々に消費生活協同組合の事業を利用せしめるを適当とするとき」などが挙げられていた。したがって、酒類販売業については、周辺に全く酒類販売業者が存在しない山間僻地等でない限り、員外利用許可を受ける必要性は全く存在せず、その免許に員外利用許可を受けることを要求することは、生協法が定めた員外利用許可の趣旨に明らかに反する。

(3) 以上のとおり、員外利用許可を受ければ酒類販売業の免許が受けられるといったことは、生協法一一条違反にならないことの理由にはならないのである。

(四) ③の判示については、人口基準が合理的なものといえるとの点についてはそうであるとしても、本件拒否規定がそれから当然に導かれるものではなく、不合理なものであること、また、生協の優遇税制の点も、それが本件で取り立てて問題とされなければならないものではないことは、既に述べたとおりである。

そして、生協の出店が一般の小売商に与える影響は小さくないと考えられるとの点についても、原判決の論旨が失当であることは、以下のとおりである。

(1) 既存店のあるところに他の新たな店舗が出店すれば、既存店に何らかの影響が出ることが考えられるのは、新たな店舗が生協であるか、一般店舗であるかによって相違はない。むしろ、利用者が組合員に限られる生協の方が、利用者の限定のない一般店舗よりその分影響が少ないとすらいえる。

特に影響が大きいのは大規模小売店舗であり、生協はその比ではない。そして、このような影響の大きい大型店舗については、前述のとおり、免許要件を緩和し、人口基準も距離制限も設けず、経営能力等の人的要件さえ満たせば免許を付与することとしているのであるから、なおさら、生協に関してこの点を持ち出すことは失当である。

(2) 生協の出店により小売商への影響があるとしても、それが員外利用許可を求めるほかに適切な方法がない理由となるものではない。

小売店に対しては、むしろ、員外利用許可を取らずに組合員のみの利用に止め、販売先の棲み分けを図った方が影響も少なく、合理的である。

ちなみに、本件は、新たな出店ではなく、相当以前に存在する生協の店舗について、扱い品目に酒類を加えようとするだけのものであり、その他の食料品、衣類、雑貨等に関して、周辺の同種小売商と摩擦を起こしたことは全くなく、周辺の住民から不便を理由に員外利用許可をとるように求められたこともない。このような状況下で、扱い品目に酒類を加える場合のみ、なぜ、員外利用許可を求めるほかに方法がないということになるのであろうか、現実論としても、理解に苦しむところである。

(3) そもそも、原判決が述べるのは、酒税の保全とは直接関係のない中小小売業者との調整ということであり、これは酒税法の対象とするところではなく、このような酒税法と関わりのない事柄をもって、酒税法の免許拒否の理由とすることは明らかに誤りである。

(五) 実際に員外利用がどの程度されているかについて、控訴人の店舗のうち、酒類販売の員外利用許可を受けている三つの店舗で調査したところ、和泉店では一日の酒類購入者一四一名中非組合員四名、光洋台店では同一二二名中〇名、衣笠店では同五六名中〇名、合計同三一九名中四名(構成比0.14パーセント)であった。員外利用許可を受けても、現実に組合員以外で酒類を購入する人はほとんどいないのが実情であり、員外利用許可を受けても受けなくても、その利用実態に変化はないのである。

これは、生協が、①誰でも自由に加入及び脱退ができる団体であること、②加入の手続は極めて簡単であること、③加入に当たり必要とする出資金も少額(控訴人の場合は五〇〇〇円)であり、脱退の場合には全額返還されることなど、極めて開かれた組織であることからくる当然の帰結である。

このような員外利用の実情からすれば、原判決が員外利用許可を求めるべきであるというのは、現実を無視した空論にすぎないというべきである。なお、被控訴人らは、総務庁の調査により員外利用率の平均は6.7パーセントであると指摘するが、これは酒類の員外利用に関するものではないし、仮に右数値が正確なものであるとしても、その率自体極めて低率であり、消費者にとって員外利用を認める必要のないことを如実に示すものである。

(六) なお、原判決は、控訴人が酒販免許を得るには、神奈川県知事から員外利用許可を得る必要があるところ、現在神奈川県においては、地元酒販組合の同意がない限り、右許可申請自体を受け付けない扱いとされていることが窺われ、このこと自体問題というべきであるが、そのことの故に、本件拒否規定が不当、不合理になるものとはいえない旨を判示する。

しかし、控訴人としては、神奈川県知事が員外利用許可を与えないことの故に、本件拒否規定が不当、不合理であると主張していたのではない。員外利用許可を要求すること自体が不当、不合理であると主張したのである。

(七) 被控訴人らの主張(後記二2(一)、(二))について

被控訴人らは、生協法一一条にいう特別の理由について、酒税法に基づく需給調整上の要件などがこれに該当するとされているとし、それ故、控訴人の主張は失当であると主張する。

しかしながら、控訴人が主張しているのは、右酒税法に基づく需給調整上の要件、すなわち人口基準に基づく免許枠の範囲内においては、生協も他の事業者と同等の機会を保障されるべきであるということであり、それが生協法一一条の趣旨であるということである。

そして、生協は員内利用をその本質とするのであり、同法一一条は、このような生協の本質である員内利用を目的とする事業活動について、他の事業者との機会均等を保障したものにほかならない。したがって、員外利用許可を受けなければ酒類の販売事業を認めないという扱いは、生協にその本来の本質的な事業活動をする機会を認めないものであって、明らかに同法一一条に反することになる。

また、被控訴人らは、員外利用許可の制度を適用することが酒税法の趣旨、目的に適するなどと主張するが、員外利用許可の制度と人口基準による需給調整の制度とは、その趣旨を全く異にするものであるから、右主張は失当である。

そもそも、員外利用許可は、本件拒否規定の「販売先がその構成員に特定されている団体」という要件を解除する要件として機能するものであるから、員外利用許可の問題を論じる以前に本件拒否規定の合理性が論じられなければならないのであって、本件拒否規定の合理性の根拠として、員外利用許可を求めることの合理性を持ち出すことは失当である。

3  本件拒否規定ただし書について

(一) 原判決は、本件拒否規定ただし書への該当性を否定している。このただし書は、消費者の便益を考慮して設けられたものといえるところ、原判決は、既存店の存在を理由に、既に十分消費者には便利な状況になっているから、新たに控訴人に免許を与えなくとも消費者には不便をきたさないというのである。

ところで、このことは、逆に、新たに控訴人に免許を付与しても一般消費者は何ら不便をきたさないということでもあり、被控訴人らが本件拒否規定の根拠として主張していた消費者の便益論が全く失当であることを如実に示すものである。

原判決が、本件拒否規定の根拠として、被控訴人らの主張する消費者の便益論を採用しなかったのは、このような現実があるからであると思われる。そして、原判決は、本件拒否規定の根拠を人口基準との関連性に求めたのであるが、本件拒否規定が人口基準と関連性のないことは既に述べたとおりである。結局、原判決の右判示は、本件につき予め結論を出し、それに合わせて本件拒否規定の合理性を、緻密な論理的検証をすることなく、無理矢理こじつけたことを示すものといえよう。

(二) むしろ、本件においては、控訴人の免許申請は少なくとも本件拒否規定ただし書に該当するとして認められるべきである。

すなわち、ただし書は、「その法人又は団体の申請販売場の所在地の周辺地域内に居住している住民の大半が、これらの法人又は団体の構成員となっている」という要件を規定しているが、控訴人の本件申請店舗周辺に居住する控訴人組合員は、基準人口数をはるかに超える数に至っており、その直近では、住民の中に占める組合員の割合は八割ないし九割という高率になっているから、右のいう「大半」の要件を満たしている。

また、既存の酒類販売場が存することは原判決の指摘するとおりであるが、ただし書の規定が消費者の便益のために設けられたものであることを考慮すれば、消費者である組合員が不便をきたしていれば、ただし書への該当性を認めるべきである。そして、組合員にとって、生協の店舗で他の食料品と一緒に酒類を購入できないということは、まさに不便そのものである。

また、生協が供給しているいわゆるコープブランドの酒類は、一般酒販店では購入できないものであるから、その購入についても、組合員は不便をきたしているといえるのである。

なお、原判決は、員外利用許可を受けている和泉店、洋光台店、衣笠店で購入できること、共同購入や直買いの方法により購入できることを理由に、不便をきたしていないと判示しているが、員外利用許可を受けているのは控訴人の全店舗一四〇店のうち僅か三店舗にすぎず、他の店舗を利用する組合員はわざわざ遠方まで出向かなければならず、不便極まりない。共同購入や直買いの方法も、手続的にも面倒であり、また共働きで日中仕事に出ているような組合員には利用しにくいもので、このような手段があるからといって、不便でないとはいえない。要するに、コープブランドの酒類を購入できる可能性と、その便益性とは別のことであり、原判決は、単に右購入できる可能性を指摘しているにすぎない。

以上のとおり、ただし書への該当性を認めなかった原判決は失当である。

4  中央酒類審議会の答申について

中央酒類審議会基本問題部会は、平成九年六月一三日、「酒販免許制度等の在り方について」と題する答申を出した。これによれば、今後講ずべき措置として、需給調整要件については、①距離基準については、早期に廃止する、②人口基準については、可及的速やかに廃止する方向で、段階的な緩和を進めるとされている。

このように、需給調整要件自体を早期に廃止する方向を打ち出しているということは、もはや現在の状況においては、需給調整を行う必要性が著しく薄れていることを示すものであり、人口基準を廃止しても、酒税法が意図する酒税の保全に支障が生じるとは考えられないことを意味するものである。

したがって、免許の要件の特例として、しかも「当分の間」というような暫定文言をもって規定されている本件拒否規定については、それを存続させる必要性や合理性はなおのこと存在しないといわねばならない。

二  当審における被控訴人らの主張

1  本件拒否規定の合理性について

(一) 本件拒否規定の合理性については、原審において主張したとおり(原判決二〇頁一〇行目から二四頁一〇行目まで)であるほか、以下の点を付言する。

よって、本件拒否規定に合理性がないとする控訴人の主張はいずれも争う。

(1) 生協のような団体等については、法人税等の優遇措置が適用されるほか、生協の事業は営利が目的ではなく、組合員及び会員に奉仕をすることを目的としているため、一般の酒販店より営業面などにおいて有利な状況にある。さらに、当該団体等の組合員は、右団体等から商品を購入する場合、利用分量に応じて割り戻される「利用分量割りもどし」(例えば生協法五二条及び消費生活協同組合の剰余金割りもどしに関する省令)及び出資金の額に応じて割り戻される「出資配当」などを受けられるという利点があるため、一般の酒販店から酒類を購入するより、当該団体等から酒類を購入する蓋然性が高いといえる。

それゆえ、仮に右団体等と一般の酒販店が販売地域を同じくして店舗を出している場合、互いに顧客を確保するために値引き等による過当競争を引き起こし、いずれかの店舗又は双方の経営の基礎が弱体化するため、資本力の弱い個人及び中小法人である一般の酒販店は、自己の経営努力をもってしても、右団体等とは市場で対等に競争できなくなるといえる。したがって、このような事態が生じた場合、一般の酒販店の倒産等により酒税の確保に支障をきたす事態が当然予測されるのであり、本件拒否規定は、このような事態を避ける必要性から設けられたものである。

(2) 生協法一二条三項は、員外利用は原則として認めず、例外的に同条四項の「組合がその組合員以外の者に物品の供給事業……を利用させることによって中小小売商の事業活動に影響を及ぼし、その利益を著しく害するおそれがあると認めるとき」に該当しない場合、行政庁の許可を受けることを条件に員外利用を認める旨を規定している。

仮に、生協が員外利用許可を受けないまま、つまり、右行政庁が中小小売商の事業活動に影響を及ぼし、その利益を著しく害すると認めている状態のまま、税務署長が一般酒類小売業免許を付与した場合、既存の一般の酒販店の事業活動に影響を及ぼし、その利益を著しく害することは十分考えられる。また、このような状況下においては、当該小売販売地域に新規参入しようとする者の出現は考え難く、よって、組合員以外の一般消費者は酒類の購入に不便を感じるとともに、その一方で、酒類の需給の均衡を欠くような状態になり、結果的に消費者が酒類の購入の必要から酒類の販売場を有する特定の生協に加入することを、国が間接的に強制してしまう結果になることも懸念されるところである。

したがって、生協のような団体等に免許を付与するに当たって、員外利用許可を受けることを要件とすることには十分理由がある。

(3) 本件拒否規定に該当する団体等は、控訴人以外に、定款に員外利用の規定のない農業協同組合、漁業協同組合、森林組合及び企業の購買組合などが考えられるところ、例えば、一般酒類小売業免許を付与されている企業の購買組合が、組合員を対象に酒類を販売する場合、組合員であるがゆえ、一般の酒販店で販売している金額より安い値段で販売することが考えられ、一般の酒販店の周辺に住んでいる当該組合員は、あえて右の酒販店から酒類を購入しなくとも、安い酒類を購入できることとなる。一方、一般の酒販店は、非組合員である一般消費者だけを顧客としていては経営面で採算にのらないため、必然的に当該組合員にも酒類を購入してもらおうとして、自店の通常の小売販売価格を割り込んで当該組合の販売価格と同程度に落として販売しなければならない結果となり、一般の酒販店の経営は更に悪化し、ひいては酒税の確保に支障をきたす事態が発生する蓋然性は高い。

仮に、本件拒否規定を削除した場合、右の団体等が免許を申請することは十分に予想され、これらの団体等に免許を付与した場合には、酒類の需給の均衡を破り、ひいては酒税の確保に支障をきたすことが十分に予想されるところである。

なお、右団体等のうち、一般酒類小売業免許の申請をしている者は、現時点では控訴人以外いないのであるが、その理由は、免許取扱要領の本件拒否規定の意味するところを理解し、免許の申請に及んでいないことによるものと考えられ、本件拒否規定を定めておくことには十分理由がある。

(二) 控訴人の主張1(二)について

(1) 同(1)の主張について

なるほど、当該団体等から酒類を購入できる者と、購入できない者が存在しても、その者も含めて他の酒販店から酒類を購入できる可能性があるという前提に変わりはない。

しかし、控訴人のような団体等に免許を付与した場合、組合員は、一般の酒販店で酒類を購入するより当該団体等から酒類を購入した方が利用分量割りもどし及び出資配当などを受けられるという利点があり、当該団体等から酒類を購入する蓋然性が高いため、人口基準に基づく酒類の需給調整が機能しないこと、一般の酒販店は、非組合員の一般消費者だけを対象としていては商売にならないことから、勢い当該団体等との間で値引き等による過当競争に走り、その結果、経営が悪化して倒産等により酒税の確保に支障をきたすことも容易に予想されるところである。これはまさしく酒類の需給の均衡の維持が困難ないし不可能になることを意味するのである。

控訴人の右主張は、人口基準の一面のみを形式的にとらえるもので、理由がない。

(2) 同(3)の主張について

本件拒否規定については、あらかじめ一切免許を与えないというような取扱いではなく、控訴人以外の生協の大半は員外利用許可を取得し、酒販免許を付与されているのが実情であり、また、一般酒類小売業免許を付与するに当たって許可制にするということも、憲法二二条一項に違反するものではない。そして、酒税を保全するための、免許を付与するに当たっての各種要件についても、免許取扱要領に定め全国統一的に運用しているものであるから、控訴人の右主張には理由がない。

(三) 控訴人の主張1(三)について

(1) 同(1)、(2)の主張について

仮に、控訴人が主張するような団体等の組合員数が基準人口を上回る場合であっても、その地域に非組合員が存在することに変わりはなく、また、当該団体等の組合員が基準人口を下回る場合と同様、当該団体等を利用できない者が存在することも変わりはないのであるから、控訴人の主張は前提を欠くものである。

(2) 同(3)の主張について

控訴人の指摘する原判決の判示は、そのような可能性の結果として、同じ小売販売地域内に二つの販売場が存在した場合、値引き等の激化による過当競争が生じ、経営が悪化して倒産等が発生し、ひいては酒税の確保に支障をきたすおそれがあるということを意味しているのであるから、必ずしも距離的に近い地域において二つの酒販店が競合することとなるとは限らないことを根拠に原判決の論旨が失当であるとする控訴人の主張には理由がない。

のみならず、控訴人においてさえ神奈川県下に一五〇余りの店舗を有していることから、右団体等に免許を付与することとした場合、同一販売地域に一場では済まなくなり、右状況はさらに激化することが予想される。

(3) 同(4)の主張について

控訴人は、酒販店を含む多くの中小小売商は、その大多数が税制上の理由から法人化し、生協とは比較にならない合法的な事実上の優遇措置を受けているのであり、表面的な税率のみを議論することは失当であると主張する。

しかし、協同組合と比較して一般の法人が優遇措置を受けている事実はないし、控訴人のいう「酒販店を含む多くの中小小売商」には、酒類の小売販売店以外の業者も多数含まれており、また、酒類小売店の大多数が法人組織であるわけではない(その72.7パーセントは個人事業者である。)から、控訴人の右主張は理由がない。

(四) 控訴人の主張1(四)について

(1) 同(1)の主張について

確かに、免許取扱要領において、現行の人口基準が採用されたのは平成元年からであり、それ以前は世帯数基準と小売数量基準のいずれかの基準並びに実質基準が採用されていた。

このうち小売数量基準は、これと選択的に適用されていた世帯数基準と同様、一定地域における酒類の需要と供給の関係を把握するための基準とされていたものであり、基本的には人口基準と同様、酒類販売業者が酒類を購入しようとするすべての消費者に販売できることを前提として、この需要の多寡を当該地域における従来の小売販売数量の実績を基準として把握していたものである。したがって、小売数量基準を選択した場合においても、人口基準の下におけると同様、酒類の販売先が特定の構成員に限定された団体等に酒販免許を付与すると、一定の地域に居住する住民の中に、当該団体から酒類を購入できる者とできない者とが生ずることとなり、その地域について、小売数量基準により需要の多寡を判断することが困難ないし不可能となる。例えば、小売数量基準の下で、一見その地域の需給状況がもう一件免許を付与できる状態のようであっても、その地域の酒販店の中に酒類の販売先が特定の構成員に限定された団体等が含まれている場合には、実際には当該団体等がその構成員に対して販売している酒類が多量であるためにその地域の小売販売数量の総量が多くなっているだけで、当該団体等の構成員でない者との関係ではその地域の需給状況がもう一件免許を付与できる状態にはなく、実質的に需給が均衡していないといった不合理な事態が生じうるのである。

したがって、本件拒否規定は、小売数量基準の下においても、現行の人口基準の下におけると同様に、その基準の適用による需要の多寡の適正な判断を担保する機能を果たしていたのであり、小売数量基準の下において本件拒否規定が適用されていたからといって、本件拒否規定が人口基準と関連性がないということはできない。

(2) 同(2)の主張について

当局者の国会での答弁によっても、本件拒否規定は、酒税の保全上酒類の需給の均衡を維持する必要があるという観点から考慮されたものと認められるのであって、消費者の便益を理由としているとする控訴人の主張は理由がない。

(3) 同(3)の主張について

原判決は、需給調整要件としての人口基準の合理性を確保するために必要な要件を説明しているのであるから、本件拒否規定が人口基準から導かれるものとの論理と矛盾するものであるとの控訴人の主張には理由がない。

(4) 同(4)の主張について

免許取扱要領のうち大型店舗酒類小売業免許の規定において、本件拒否規定の部分を準用するとしても、生協のような団体等は、大規模小売店舗における小売業の事業活動の調整に関する法律に基づく店舗には該当しないのであるから、本件拒否規定を準用する必要はない。

また、免許取扱要領の特殊酒類小売業免許のただし書の規定においては、その目的に従い軽減し、又は準用しないことができるとされており、現に、需給調整要件の検討が必要のない「みりん」の小売業免許については、控訴人に対しても免許を付与している。

したがって、控訴人の主張はその前提を欠き、理由がない。

(五) 控訴人の主張1(五)について

(1) 同(1)の主張について

酒税法立法当時の立法者の意思が、販売先がその構成員に特定された団体に免許を付与するというものであったとの事実はない。

(2) 同(2)の主張について

酒税の保全という意味において、免許取扱要領の基本的な趣旨、目的は、従来のものと何ら変わるところはなく、本件拒否規定は十分な理由があるから、控訴人の主張は理由がない。

2  生協法一一条違反について

(一) 本件拒否規定が生協法一一条に違反するものではないことは原判決の説示するとおりであって、これが生協法一一条に違反するとの控訴人の主張はいずれも争う。

なお、同法一一条にいう特別の理由とは、法律によって一定の食料を公団のみに取り扱わせることになっているような場合、組合が公団と同等の便益を受けられなくともやむをえないというものであり、今日では、酒税法に基づく需給調整上の要件などがこれに該当するものとされているのであるから、この点からも、控訴人の主張は失当である。

なお、同法一二条三項及び四項の員外利用に係る規定は、行政庁から員外利用許可を受けた場合には員外利用を認めるというものであるから、免許枠への参入の機会は、他の事業者と均等に扱われなければならないという主張がその前提を欠くことも明らかである。

(二) 控訴人の主張2(二)、(三)について

酒税法と生協法とは制度の目的が異なるから、結果として生協に対し免許を付与できないからといって、何ら違法な処分とはいえない。また、生協法一一条の特別の理由には、酒税法に基づく需給調整上の要件などがこれに該当するのであるから、同条の事業の機会均等の趣旨に反するということはない。さらに、山間僻地などで、その住民のほとんどが組合員であるような地域については、本件拒否規定ただし書に該当するものと認められ、員外利用許可を受けなくとも、税務署長は免許を付与しうるのであるから、控訴人の主張はその前提を欠くものである。

免許を付与するに当たって員外利用許可を得ることを要求しているのは、もっぱら生協法の員外利用の制度を適用することが、酒税法の趣旨、目的に適することによる。生協法の員外利用許可の問題と、酒税法が酒類の需給の均衡を乱すことのないように人口基準を採用し、右基準を担保するために本件拒否規定を定めていることとは、立法趣旨等の領域を異にするものである。したがって、酒税法における立法趣旨等から、被控訴人らが、控訴人に対し員外利用許可を求めることは合理的な判断であり、生協法一一条の規定からみても、同法に反するとはいえない。

なお、神奈川県を含む数県を除く他の大多数の都道府県では、生協法一二条四項により、当該行政庁の判断を受けて、知事が員外利用許可をし、その結果として生協にも酒販免許の適法な交付がされているのである。このことからも、被控訴人らが控訴人に対し員外利用許可を求めたことが不当、不合理なものということはできない。

(三) 控訴人の主張2(四)について

(1) 控訴人は、員外利用許可の有無により優遇税制の点に違いは出てこないのであり、むしろ優遇税性があれば、一般小売業者により影響のある員外利用許可は避け、組合員のみの利用に限った販売先の棲み分けを図る方が合理的であると主張する。

しかしながら、免許の効果は、広く平等にすべての消費者を対象としてその効果が行き渡ることが要請されることから人口基準が採用されているところ、控訴人の主張するような販売先の棲み分けを図るということは、客観的な全国一律の基準を適用することが不可能となり、公明性を放棄することとなってしまい、その結果、酒類の需給の均衡を維持できないような状態が生じる可能性が増大するのは明らかである。控訴人の主張は、自己に都合のよい側面からの主張であり、合理的根拠はない。

(2) 同(1)の主張について

当該団体の組合員は、当該団体等から商品を購入する場合、利用分量割り戻しや出資配当を受けられることなどから、既に一般の酒販店がある地域に利用者が組合員に限られる生協のような団体等が出店した場合の方が、利用者の限定のない一般の酒販店より影響力が大きいものと考えられる。

また、大規模小売店舗は、大規模小売店舗における小売業の事業活動の調整に関する法律により、周辺の中小小売業者の保護を目的とする規制がされており、周辺の酒販店に対する影響についてはこの規制を通じて配慮されていること及び一般の酒販店の消費者がその店舗の周辺に住んでいる者であることが多いのに対し、大規模小売店舗は広範囲にわたる地域住民を対象として営業を行うものであり、モータリゼーションが進展し人々の流動が非常に活発化した今日では、むしろその大規模であるがゆえの集客力が周辺の中小小売業の活発化をもたらすという側面もありうることから、一般の酒販店の取扱いとは別に特例手続を設け、人的要件のみの審査により免許を付与しているものであり、大規模小売店舗の規制の実態、機能及び公共性を踏まえたところでこのような取扱いを講じた制度の趣旨を考慮せずに、一般酒類小売業免許と同一に論ずることは前提を誤った議論である。

(3) 同(3)の主張について

生協法は、一二条三項で員外利用の制度を設けており、本件の場合、この制度に基づいて、酒税法上の目的を達成できるかどうかの判断をしているものであり、同法一一条で保障する事業の機会均等に反するものではない。よって、員外利用を受けられないのは、もっぱら生協法上の問題であって、控訴人に対し員外利用許可を要求することは、むしろ生協法の趣旨を尊重した酒税法の運用というべきであり、何ら不当、不合理なことではないのである。

(四) 控訴人の主張2(五)について

総務庁が平成二年八月から九月の間に一四都道府県の三四店舗の生協の各一日の員外利用状況を調査した結果によれば、員外利用率の平均は6.7パーセント(高いところは35.8パーセント)であり、控訴人の和泉店、洋光台店及び衣笠店の三店舗の員外利用の割合は控訴人側の何らかの事情によってそのように低い割合になっているものと考えられるから、これを根拠に、あたかも全国どこの生協も同じ状況であるかのような主張は、合理的根拠を欠く。

3  本件拒否規定ただし書について

(一) 控訴人の主張3(一)について

控訴人の主張する消費者の便益論というものは、あくまでも酒類の需給の均衡を維持するという前提のもとにあるというべきであるから、単に消費者の酒類購入の利便性をいう控訴人の主張は右前提を考慮に入れていないものであり、失当というべきである。

(二) 同(二)について

控訴人の主張は、消費者の便益論が、前記のとおり、酒類の需給均衡の維持という前提のもとにあるということを無視し、しかも組合員のみの便益という観点からの主張といえるのであり、失当というべきである。

4  中央酒類審議会の答申について

控訴人の主張する答申は、平成九年六月一三日に答申されたものであり、今後講ずべき措置として、人口基準については、可及的速やかに廃止する方向で、段階的な緩和を進めるという内容であるから、本件拒否処分当時における右処分の適法性に何ら影響を与えるものではない。

第三  証拠関係

本件記録中の書証目録及び証人等目録記載のとおりであるから、これを引用する。

第四  当裁判所の判断

一 当裁判所も、控訴人の本訴請求はいずれも理由がなく棄却すべきものと判断するが、その理由は、次項以下のとおり、当審における控訴人の主張に対する判断を付加するほかは、原判決「事実及び理由」の「第三 当裁判所の判断」のとおりであるから、これを引用する。当審における証拠調べの結果によっても、右認定判断を左右するに足りない。

二  本件拒否規定の合理性について

1  控訴人の主張1(二)について

控訴人のこの点の主張は、要するに、人口基準に合理性があるとしても、人口基準は一定の地域に居住する者が酒類を購入する可能性があることを前提とするものであるところ、酒類の販売先が特定の構成員に限定された団体に酒販免許を付与したとしても、当該団体からは酒類を購入できない者も地域内の他の酒類販売業者から購入することができ、右前提に変わりはないから、人口基準による需給の調整が困難ないし不可能になるとはいえず、むしろ、人口基準により算出された免許枠の範囲内である限り、供給過剰となって過当競争が生ずるおそれはないことになり、ある販売場がその地域に住んでいる人すべてが利用できるものであるかどうかは、人口基準による需給の調整とは関係がないというものである。

しかしながら、人口基準は、原判決の認定するとおり、小売販売地域ごとに、需要を示す客観的計数である人口数を把握し、それを合理的に算出された人口基準という計数で割り、酒類を供給する酒販店の数を算出するものであるところ、このような算出方法により需給の調整を図ることができるためには、需給の調整という観点から酒販店に差異がないこと、すなわち酒類の販売先が特定の構成員に限定された団体等は酒販店の中に含まれていないことが前提となるものである。したがって、右団体等にも酒販免許を付与することとした場合には、前提が異なることとなり、一律の人口基準により需要の多寡を判断することが困難ないし不可能になるものといわざるをえないものであって、原判決のこの点の判示は相当ということができる。

控訴人の右主張は、人口基準は、一定の地域に居住する者が酒類を購入する可能性があることのみを前提とする点において、前提を誤るもので、採用できないといわざるをえない。したがって、控訴人の主張するように、人口基準により算出された免許枠の範囲内である限り、供給過剰となって過当競争が生ずるおそれはないなどと断ずることはできないし、ある販売場がその地域に住んでいる人すべてが利用できるものであるかどうかは、人口基準による需給の調整とは関係がないなどともいえないほか、以上の主張を前提とするその余の控訴人の主張も採用できない。

2  同(三)について

(一) 控訴人は、「その地域においては、酒類の販売先が特定の構成員に限定された団体等から酒類を購入する可能性のない者が存在することにより、それらの者との関係で、一律に人口基準により販売場数を算出することの合理性が失われる」との原判決の判示につき、ある団体から酒類を購入する可能性のない者が存在するからといって、人口基準により販売場数を算出することの合理性が失われることにならないなどと主張するが、右主張が前項の控訴人の主張を前提とするものであって、採用できないことは、前項に説示したところから明らかである。

(二) 控訴人は、続く「他の申請者の免許申請に対し、需給の均衡を欠くとしてこれを拒否することができなくなる」との原判決の判示につき、右判示は、その構成員数が基準人口を上回っている場合には、該当しないし、構成員数が基準人口を下回っている場合で、さらに免許を認めても差し支えない事態が生じた場合でも、免許を与えればよいだけのことであり、そのような事態が生じうることを理由に免許を拒否することには何らの合理性もない等と主張するが、この主張も、前提を誤るもので採用できないことは、前項に説示したとおりである。

(三) 控訴人は、原判決が、距離的に近い地域において、二つの酒販店が競合するという結果が生じると判示する点について、必ずしも距離的に近い地域において二つの酒販店が競合するという結果が生じることにはならないし、距離的に近い地域において二つの酒販店が競合するという結果が生じることは、免許を与える場合すべてに問題となることであるから、もう一場免許を認めざるをえない場合の結果としてこのようなことを述べる原判決の論旨は、それだけで失当といえるし、免許取扱要領は、別途距離基準を設け、店舗間に一定の距離が保たれるよう調整しているのであるから、距離が近いことによる問題はこの点で解消されると主張する。

しかしながら、原判決は、酒類の販売先が特定の構成員に限定された団体等に酒販免許を付与した場合に予想される事態の一つとして、距離的に近い地域において、二つの酒販店が競合するという結果が生じると判示しているにすぎず、特別に近接する場合を問題とするものでもなく、このような結果がこの場合にのみ生じるというものでもないのであって、何ら不相当な点はなく、控訴人の右のような非難は的を射ていないものといわざるをえない。

(四) 控訴人は、原判決が、生協に優遇税制があることから、競合する他の酒販店の経営が不安定化すると判示する点について、生協に優遇税制があるからといって、直ちに他の酒販店が生協より競争上不利益になるとはいえないし、優遇税制の問題は酒類の販売に限ったことではない、むしろ、控訴人のような規模の生協の場合、所得全体に対する法人税の割合は、ほとんどすべての酒販店のそれを上回っているのであって、表面的な税率のみを基に議論することは失当であると主張する。

しかしながら、生協について税の優遇措置が採られていることは控訴人も認めるとおりであり、これが、生協と他の酒販店とが競合する場合に、他の酒販店の経営が不安定となる一つの要因となりうることを否定することはできない。なお、控訴人のような規模の生協の所得全体に対する法人税の割合が、ほとんどすべての酒販店のそれを上回っていると断ずるに足りる証拠はない。

また、控訴人は、原判決は、員外利用許可を得ることにより生協も免許を取得できることを指摘し、その扱いを是認する判断を示しているところ、員外利用許可の有無により優遇税制の点に違いは生じないから、生協に対する免許付与の適否に関する議論において、優遇税制の問題を持ち出すことは、論理的に失当であるとも主張する。しかしながら、控訴人の右主張は、例外的に生協が員外利用許可を得ることにより免許を取得できる場合と、生協が免許を取得できない原則的な場合とを対比して、いずれの場合においても優遇税制の点に違いはないから、右原則的な取扱いを是認する根拠として優遇税制の問題を持ち出すことは論理的ではないとするものであり、いわば原則と例外を取り違えるに等しく、失当である。

3  同(四)について

(一) 控訴人は、本件拒否規定が定められたのは昭和三四年であるが、現行人口基準は平成元年に制定されたものであり、それ以前は、小売数量基準と世帯基準が存在し、この世帯基準は人口基準と同様のものであったが、昭和三八年以降は小売数量基準のみによっても免許が付与される状態が継続していたから、本件拒否規定と人口基準は関連性がないと主張する。

しかしながら、昭和三四年に定められた免許取扱要領は、酒類小売業免許について、従前の基準場数制度を廃止して、新たに需給調整上の要件として、小売販売数量基準(酒類の需要の多寡を小売販売数量の実績を基準として把握するもの)及び世帯数基準(右需要の多寡を世帯数を基準として把握するもの)を採用すると同時に、本件拒否規定の前身となる規定が置かれたこと、昭和三八年の改正により、右要件として、小売販売数量基準と世帯数基準のうちいずれかに該当すればよいが、さらに実質的認定を行うこととし、同時に本件拒否規定と同旨の規定が置かれたこと、その後の平成元年の改正において、需給調整上の要件の認定について、それまで実質的認定を含む二段階によって行うものとされていたものを、できる限り形式的基準の適用によって客観的に行うことができるようにするという観点から、現行人口基準が採用されたことは、原判決の認定する免許取扱要領の変遷等のとおりであり、以上の経緯等からしても、昭和三四年の免許取扱要領の制定以来、人口基準の前身となる需給調整上の要件が定められると同時に、本件拒否規定の前身となる規定が設けられ、数次の改正を経て現在に至っているものであって、本件拒否規定と人口基準との関連性を否定することはできない。

(二) 控訴人は、本件拒否規定が設けられた趣旨に関する当局者の国会での答弁を見ても、もっぱら消費者の便益をその理由として説明しており、原判決のように人口基準から当然に導かれるとは言っていないと主張する。

しかしながら、乙第一八号証の一、二によっても、本件拒否規定が設けられた趣旨についての当局者の説明が、もっぱら消費者の便益を理由として説明されたものとはいい難く、控訴人の右主張は前提を欠くものである。

(三) 控訴人は、本件拒否規定が当分の間との留保付で定められており、このような留保が付くこと自体が、本件拒否規定が人口基準から必然的に派生するものではないことを示すものであるし、原判決がなお当分の間、本件拒否規定を維持する必要があると判示する点も、本件拒否規定が人口基準から導かれるという論理と矛盾すると主張する。

しかしながら、本件拒否規定は人口基準を採ることから当然に導き出されるものといえることは既に説示したとおりであるところ、当分の間との留保が付されたのは、本件拒否規定を廃止することにより人口基準が十全に機能しなくなる不都合と、本件拒否規定が設けられていることによる消費者の不利益等とを比較較量して、わが国の経済社会の将来における変化の状況によっては、この後者をより重視すべき事態が招来されることが予想されることを考慮して、本件拒否規定を排除する余地を認めたものと解されるのであって、控訴人の右主張は失当である。

(四) 控訴人は、人口基準を採用していない大型店舗酒類小売業免許や特殊酒類小売業免許にも本件拒否規定が準用されていることからも、本件拒否規定が人口基準とは無関係に制定されたことが明らかであると主張する。

しかしながら、原判決の認定するとおり、大型店舗酒類小売業免許や特殊酒類小売業免許に人口基準が適用されないのはその特殊性に由来するものであり、これらと一般小売業免許と同一に論ずることはできないから、これらに人口基準が適用されていないからといって、直ちに、本件拒否規定が人口基準とは無関係に制定されたものということはできない。

4  同(五)について

(一) 控訴人は、昭和一三年に酒類販売業に免許制が採用された際、本件拒否規定のような規定は存在しなかったことからも、酒類の需給調整と本件拒否規定との間に必然性がないと主張する。

しかしながら、原判決の認定する免許取扱要領の変遷等のとおり、昭和三四年の酒税法改正に伴い、従前の基準場数制度を廃止し、新たに需給調整上の要件として、小売数量基準及び世帯数基準を採用するとともに、本件拒否規定の前身となる規定を置いたものであるから、需給調整と本件拒否規定との間に関連性がないとはいえない。

また、控訴人は、昭和一三年当時の立法者の意思は、生協のような団体にも免許を与えるというものであったのに、昭和三四年に突如本件拒否規定が出現したと主張するが、甲第二一号証の一、二によっても、昭和一三年当時の立法者の意思が控訴人の主張のとおりであったと認めるに足りず、他にこれを認めるに足りる証拠はない。

(二) 控訴人は、現行の免許取扱要領は、人口基準を採用したとはいいながらも、その人口基準による需給の調整という考え方を部分的なものに止め、相対化しているのであり、このような全体的な制度の変容を考えてみても、本件拒否規定にのみこだわり続けることは、全く合理性を欠くものとなっていると主張する。

しかしながら、控訴人の主張するような制度の変更がされたとはいえ、免許取扱要領が人口基準による需給の調整をその基礎としていることに変更はなく、本件拒否規定が合理性を欠くものとなったとはいい難いから、なお当分の間これを維持する必要があるとの原判決の認定判断は相当というべきである。

(三) 控訴人は、生協にとって日常的に消費者が必要とするものを供給していくことは本質的に要請されていることであるのに、生活必要品のうち酒類のみ扱えないということは常識的に考えても不合理であると主張するが、以上の説示から、右主張が採用できないことは明らかである。

三  生協法一一条違反について

1  控訴人の主張2(二)について

控訴人は、原判決が、本件拒否規定が定められたのは、酒税の保全の目的からであり、生協排除の目的からではないと判示する点について、仮に本件拒否規定の目的が右判示のとおりであったとしても、その結果として生協が排除されていることが問題なのであって、その目的が生協排除にないからといって、生協法一一条に違反しないということにはならないと主張する。

しかしながら、原判決の認定判断するとおり、本件拒否規定は酒税の保全の目的から定められたものであるし、生協も員外利用許可を受ければ酒販免許を取得しうるのであるから、本件拒否規定が生協を排除するものとはいえないのであって、控訴人の右主張は理由がない。

2  同(三)について

控訴人は、生協の本質や員外利用の趣旨からすると、員外利用許可を受ければ酒類販売業の免許が受けられるということは、生協法一一条法違反にならないことの理由にはならないと主張する。

しかしながら、なるほど酒販免許を取得するために員外利用許可を求めることは、その本来の趣旨に必ずしもそぐわないところがあることは否定しえないものの、他に適切な方法がなくやむをえないというべきことは原判決の説示するとおりであるから、控訴人の右主張も採用できない。

3  同(四)について

控訴人は、原判決が、現行の人口基準が合理的なものといえることに加え、生協が税制上優遇されており、生協の出店が一般の小売商に与える影響は小さくないと考えられることなどを考慮すると、生協に酒販免許を与えるには、員外利用許可を求めるほかに適切な方法がないと判示する点について、るる非難する。

しかしながら、本件拒否規定が人口基準から当然に導かれるものではなく、不合理なものであるとの控訴人の主張が採用できないこと、また、生協の優遇税制が取り立てて問題とされなければならないものではないとの控訴人の主張が採用できないことは既に説示したとおりである。

さらに、生協の出店が一般の小売商に与える影響が少なくないとの点について、控訴人は、まず、新たな店舗の出店が既存店に影響を及ぼすことは生協の出店に限ったことではないと主張する。しかしながら、一般店舗と税制上優遇されている生協とを同一に論じることは相当でないし、大規模小売店舗もその特殊性から免許付与の要件について特例が設けられているのであるから、一般酒類小売業免許と同一に論じることも相当でないというべきである。

次に、控訴人は、生協の出店により小売商への影響があるとしても、それが員外利用許可を求めるほかに適切な方法がない理由となるものではなく、むしろ、員外利用許可を取らずに組合員のみの利用に止め、販売先の棲み分けを図った方が影響も少なく、合理的であると主張する。しかしながら、員外利用許可を取らずに組合員の利用のみに止め、販売先の棲み分けを図った方が影響も少ないと認めるに足りる証拠はなく、その方が合理的であると断ずることもできない。

また、控訴人は、本件は、新たな出店ではなく、相当以前に存在する生協の店舗について、扱い品目に酒類を加えようとするだけのものであるが、その他の食料品等に関して、周辺の同種小売店と摩擦を起こしたことはなく、周辺の住民から不便を理由に員外利用許可を取るように求められたこともないのに、扱い品目に酒類を加える場合のみ、なぜ、員外利用許可を求めるほかに方法がないということになるのか、現実論としても、理解に苦しむところであると主張するが、酒類については酒税法による規制がある点で、他の扱い品目と同一に論じることはできないから、右主張は失当である。

さらに、控訴人は、原判決が述べるのは、酒税の保全とは直接関係のない中小小売業者との調整ということであり、これは酒税法の対象とするところではなく、このような酒税法と関わりのない事柄をもって、酒税法の免許拒否の理由とすることは明らかに誤りであると主張する。しかしながら、原判決が述べるところは、酒税の保全上必要な酒類の需給の均衡に関する事柄であることが明らかであって、何ら不相当とはいえず、控訴人の右主張は採用できない。

4  同(五)について

控訴人は、控訴人の酒類販売の員外利用許可を受けている三つの店舗で調査したところ、員外利用許可を受けても、現実に組合員以外で酒類を購入する人はほとんどいないのが実情であり、員外利用許可を受けても受けなくても、その利用実態に変化はないから、原判決が員外利用許可を求めるべきであるというのは、現実を無視した空論にすぎないと主張する。

しかしながら、控訴人の主張する実態については、すべての員外利用許可の場合にあてはまるのかも不明であること、しかも、人口基準がある程度観念的なものとならざるをえないことは、原判決の認定判断するとおりであり、控訴人の右主張が直ちに原判決の以上の判断を左右するものとはいえない。

5  同(六)について

控訴人は、員外利用許可を要求すること自体が不当、不合理であるとの主張の根拠の一つとして、現在神奈川県においては、地元酒販組合の同意がない限り、右許可申請自体を受け付けない扱いとされていることを挙げている。

原判決の認定判断するとおり、右のような取扱いがされていることが窺われ、このこと自体問題というべきであるが、そのことの故に、員外利用許可を要求すること自体が不当、不合理となるものとはいえない。

四  本件拒否規定ただし書について

控訴人は、原判決が本件拒否規定ただし書への該当性を否定した点について、右ただし書は消費者の便益のために設けられたものであるところ、消費者である組合員は、他の食料品と一緒に酒類を購入できないことや、いわゆるコープブランドの酒類の購入について不便をきたしているのであるから、本件につき右ただし書の該当性は認められるべきであり、原判決の右認定判断は誤りであると主張する。

しかしながら、右ただし書にいう消費者の酒類の購入についての不便とは、他の食料品と一緒に酒類を購入できないといった、消費者の購入行動についての不便や、特定の種類の酒類の購入の不便を意味するものではないことは明らかであっで、控訴人の主張は採用できない。この点についての原判決の認定判断は相当というべきである。

五  中央酒類審議会の答申について

控訴人は、中央酒類審議会基本問題部会による平成九年六月一三日の「酒販免許制度等の在り方について」と題する答申を引いて、もはや現在の状況においては、需給調整を行う必要性が著しく薄れていることを示すものであり、人口基準を廃止しても、酒税法が意図する酒税の保全に支障が生じるとは考えられないことを意味するものであるとし、したがって、免許の要件の特例として、しかも「当分の間」というような暫定文言をもって規定されている本件拒否規定については、それを存続させる必要性や合理性はなおのこと存在しないといわねばらないと主張する。

なるほど、中央酒類審議会基本問題部会による平成九年六月一三日の「酒販免許制度等の在り方について」と題する答申において、今後講ずべき措置として、人口基準については、可及的速やかに廃止する方向で、段階的な緩和を進めることとされていることは、控訴人の主張するとおりである(甲第八一号証)ものの、そもそも一つの望ましい立法政策ないし行政措置を提言するものにすぎないし、また、これによって直ちに、本件拒否処分当時においても、人口基準を存続させる必要性や合理性がなかったものということができないことは明らかであって、右答申がされたことは、以上の認定を左右するものとはいえない。

六  よって、本件控訴は理由がないから棄却することとし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官矢崎秀一 裁判官筏津順子 裁判官彦坂孝孔は、転補につき、署名押印することができない。裁判長裁判官矢崎秀一)

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